現代社会は豊かさを手に入れ、私たちは職業選択や生活スタイルなど、人生の選択肢を以前よりも自由に持つことができるようになりました。皆さんは、その中でどの選択が幸福につながると感じていますか?選択肢が増える一方で、何が真に「幸福」なのかを見極めることは、ますます難しくなっています。幸福感としてのウェルビーイング「幸福感」といえば、「ウェルビーイング」という概念が広く知られています。これは18世紀から19世紀にかけて英語圏で発展したもので、功利主義などがその基盤となっています。現代において、世界保健機関(WHO)や国連は「持続可能な開発目標(SDGs)」の一環としてウェルビーイングを重視しています。WHOは健康を、単に病気や虚弱でない状態だけでなく、身体的、精神的、社会的に満たされている状態と定義しています。例えば、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」は、全ての人が医療にアクセスでき、身体的および精神的な健康を維持することを目的としており、ウェルビーイングの基礎となる健康の向上を目指しています。また、目標8「働きがいのある人間らしい仕事と経済成長を」は、誰もが尊厳のある働きがいのある仕事を持つことができる環境を作ることで、社会的な充足感や経済的安定を通じてウェルビーイングの向上に寄与しています。このように、身体的、精神的、そして社会的に健康であり、満足している状態を指す概念としてウェルビーイングは浸透しています。しかし、この「身体的、精神的、社会的に健康で満足している状態」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。特に精神的、社会的な健康の基準は時代や文化によって異なり、普遍的な「正解」があるわけではありません。日本におけるウェルビーイングとは?「ウェルビーイング」という言葉自体は、英語の"well-being"、すなわち「良くある状態」を意味しますが、日本語の「良くある」状態とは少し異なるニュアンスを含んでいるように感じます。具体的には、英語の"well-being"は個人の幸福や健康の側面を強調し、自己実現や主体性を重視する傾向がありますが、日本語における「良くある」状態は、周囲との調和や社会的な役割を果たすことに重きを置く傾向があるように思えます。この違いこそが、私たちが探求したいポイントです。日本における「幸福感」とは何なのか。たとえば、「足るを知る」や「為合わす」という価値観は、個々の欲望を抑え、周囲との調和を重視することに基づいています。周囲との調和や人間関係の中で幸福を見出すことが、日本における「良くある」状態の一つとも言えるかもしれません。また、「奥」を重視する文化も日本の幸福感に深く結びついています。例えば、日本庭園のように一見シンプルだけど深い意味を持つものを評価することが、「奥を重視する」価値観の表れです。「奥」にある価値を見つけ出すこと、つまり一見無駄なものや目に見えないものに価値を見いだし、それに満足することで心の豊かさを感じることが、日本の幸福感を特徴づけています。これは、他の文化に見られる「上」を目指す価値観とは対照的です。私たちは、上記に挙げたような例に加え古今東西のさまざまな文化や考え方を紐解き、日本人にとっての「良くある状態」、すなわち日本人的な幸福の本質を明らかにしていきたいと考えています。例:古代ギリシャ:アリストテレスによる「エウダイモニア」(人間の目的としての幸福や徳を追求すること)東洋思想:道教の「無為自然」(自然と調和し、無理のない生き方を重視すること)日本:江戸時代の「足るを知る」(必要以上の欲を持たず、今あるものに満足すること)まとめ本研究を通して、現代の日本人にとっての幸福感とは何か、そしてそれを実現するための選択や在り方とは何かを明らかにすることを目指しています。私たちは、このような謂わば「日本的ウェルビーイング」という独自の姿を描き出すことで、読者の皆さまが自分自身の幸福を見つけるためのヒントとなることを信じています。